P&Gジャパン合同会社、アドビ株式会社、KDDI株式会社などで辣腕を振るってきたCMOが、なぜ今、美容医療という全く新しい領域を選んだのか。異業種キャリアで培った哲学を持ち、Nasdaq上場を果たした第二創業期のSBCへ参画した井上さん 。業界の信頼再構築という困難なミッションと、その挑戦の裏側にある独自のマーケティング観について伺いました。
異業種を渡り歩いたCMOの哲学と成長への挑戦
井上さんはP&Gジャパン合同会社、アドビ株式会社など、名だたる大手企業でキャリアを積まれていますが、これまでのキャリアでは、なぜ一貫して「異業界」を渡り歩くという選択をされてきたのでしょうか。
確かに、ちょっと特殊なキャリアかもしれません。通常のキャリアパスでは同業界での転職が有利ですが、私は業界や商材を変えることで、マーケティングとデジタル活用の新たな知見を得られると考え、異業種を選んできました。私にとって重要なのは、“貢献できる会社”と“成長できる自分”のバランスです。そのため、競争環境にある同業界への転職は避け、マーケティングとデジタルの共通性を活かしつつ、あえて毎回業界を変えるスタイルを貫いてきました。
仕事選びの軸は、これまでの経験をもとにどれだけ貢献できるか、そして自分自身の学びと成長。新しい業界で新しい手法を学び、以前よりも知識や経験が増えていると感じられることが最大のモチベーションです。答えのないマーケティングだからこそ、常に学び続けられる点に面白みを感じています。
全くの異業種にジョインされた具体的な背景を教えてください。
転職のお話をいただいたとき、当初は「え?」と。私自身40代後半の男性で美容にもあまり関心がなく、毛色の変わったところから話が来たなというのが第一印象でした。しかし、私は美容医療に対する自分の理解と現実との間にズレや思い込みがあると感じ、強く惹かれたんです。
きっかけは、息子が中学生の時に「脱毛クリームが欲しい」と話してくれたことでした。男性が脱毛したいと思う時代になっている。コスメやシャンプーの話題と同列で、美容医療が選択肢に入ってくる時代へと変化している――。時代の変化に気付かされ、自分自身の古い価値観をアップデートできていないと感じたのです。
これまで、外資、大手、日本企業…、お堅い業界からスタートアップまで、多様な企業が私のマーケティングキャリアに興味を示してくれました。ただ、これらの企業や業界は、これまでの経験から改善や戦略の方向性は、おおよそ予測がつきました。しかし、SBCの場合は、今までの経験とは全く異なると感じました。これまでの領域では、私自身がユーザーだったため、知識や一人のユーザーとしての視点があり、企業の発信とのズレを把握できました。しかし、美容医療については全くの未経験領域。だからこそ未知の業界に飛び込むことは非常に刺激的でした。
入社を決意された理由はなんだったのでしょう。
入社の決め手は主に3つあります。
まず、「業界」です。美容医療が今の日本では珍しい成長産業でありつつ、課題や変革の余地も多い点に惹かれました。
次に、「SBCの理念」。“三方良し”の信念と“美容医療をもっと身近に”というまじめな姿勢に共感が持てました。
そして「タイミング」です。Nasdaq上場を果たし、変革期、第二創業というこのタイミングで参画できることに魅力を感じました。
美容医療は成長市場である一方、昨今は一部のクリニックによる曖昧な情報発信や営業手法などにより、業界の信頼が揺らぐ不安定な状況もみられます。その中で、SBCはリーディング企業としての立場での振る舞いと昔から続くしっかりとした理念を有しており、業界を変革できるポテンシャルがあると感じました。まっとうに勝負しようとしているSBCを応援したいと思ったんです。
マーケティングの定義は多様であり、悪用して数字を上げることも可能です。しかし、私のポリシーとして、学んできたマーケティングを悪用して成果を出したくありません。私が自信を持っておすすめできるサービスを、戦略を通じて応援したい。そのため、企業のスタンスやビジネスのあり方を重視してきました。
また、歴史ある企業では、現状維持を望む勢力の説得に時間を要する場合もあります。そのエネルギーを、私は新しいことの模索に注ぎたい。「自分たちが業界の成功事例を作る」というこのタイミングでSBCにジョインできたことを大変嬉しく思っています。

現場が直面する課題と、マーケティング変革のロードマップ
CMOとして現在SBCで取り組まれているミッションとはなんでしょうか。
私のミッションは、業界全体の健全な成長を牽引するとともに、SBCにおいては新規顧客の獲得と、それに伴う利益率の最適化を実現することです。
そのために、まずはマーケティング、ブランド戦略の再構築、そしてコミュニケーション施策の最適化を進めています。同時に、長期的な土台としてマーケティング基盤の再構築も進めています。
入社してから、SBCという組織を改めてどのようにご覧になっていますか。
熱い人たちが多いなというのが、シンプルな感想です。相川CEOは、医師、経営者、マーケターという多角的な側面を持ち、私がこれまで知る層とは全く異なる、非常に魅力的な方です。また、他のCxO(Chief × Officer、各分野の最高責任者)たちも、それぞれの専門領域を持ちながら、私と同様の思いでジョインしており、そのチーム構成をとても面白く感じています。
入社前は、業界と会社両方の成長ポテンシャルに加え、マーケティング職務としてプロモーションだけでなく4P(Product、Price、Place、Promotion)のほぼ全てを広義の責任範囲として担える点に魅力を感じていました。プロモーションもオフラインからオンラインまで幅広く、トップパートナーと最先端の戦略・施策に携われる環境です。入社後もこの感覚にズレはありません。大企業にはないスピード感と、ベンチャーにはないリソースを兼ね備えているのがSBC最大の魅力であり、仕事をする上での大きなやりがいとなっています。
井上さんから見て、現在SBCが抱える課題や、改善の余地があると感じる点があればお伺いしたいです。
SBCのスピード感は極めて速く、意思決定から2〜3週間以内の実現が求められます。このスピード感は、オーナー企業としての強い推進力とベンチャー気質から生まれており、現在の業界での地位を確立した原動力となっています。
一気に成長してきた分、仕組みよりも現場の情熱で走り抜けてきた側面もあります。 その熱量を活かしながら、次のステージにふさわしい体制づくりを進めています。ここから先は、外部パートナーと協働しながら、社員が自ら考え動ける力を磨くフェーズにあります。
SBCの持つ推進力と、より精緻な検討プロセスをどう両立させるか。ここが、今後のSBCを形作る上で、重要な経営課題になるとみています。

「まっとうさ」で信頼を再構築するブランディング戦略
多岐にわたるご経験の中で、井上さんがマーケターとして大事にしているポイントは何でしょうか。
お客様中心の姿勢は当然として、重要なのは、お客様が商材を選ぶ機会、タッチポイント、理由が変化する中で、各社のビジネスの肝に合わせてそれをどう最適に組み合わせるかです。
マーケティングはプロモーションやデジタルといった“How”(手法)に偏重しがちです。しかし、本質は“Who”(顧客)と“What”(自社の強み)の最適なマッチングの顧客戦略です。このマッチングを見つけ、社内合意のもと推進することが私の主要な役割であり、その際、俯瞰的な視点と全体最適を常に意識しています。
歴史のある企業では、顧客理解が更新されていなかったり、自社が選ばれる理由が不明確になっている場合があります。マーケティングはゼロから生み出すのではなく、曖昧な現状を改めて言語化する作業です。自社の強みと現在の選定理由を明確にし、過去の手法と変化した顧客ニーズに合わせて戦略の軸を調整します。その上で、Howを決定します。これまでに選ばれてきた強みを具現化して発信し、顧客を増やす。このWhoとWhatの組み合わせの顧客戦略こそが重要です。
井上さんが顧客理解のために、最も大切にされているプロセスや視点を教えてください。
売上データは結果として重要ですが、私はお客様の生の声をより重視しています。基本的なアプローチは、前提を持たずにお客様を理解することです。企業や業界が長くなると、“中の人”の思い込みや過去の経験が蓄積し、お客様の真の意見が見えなくなるため、私は社内の意見に過度に依存しません。もし中の人が既にわかっているなら、私自身を外から呼ぶ必要はないわけです。なぜ私がここにいるのかは客観的に無邪気に発言できるからですよね。私の役割は、客観的な視点を持ち、社内情報と顧客ヒアリングや調査の結果とのズレを可視化していくことだと認識しています。
外部の調査レポートは、調査会社側の基準や選択肢設定によって結果に偏りが出ますし、メッセージを意図的に作り出す背景が存在する場合もあるので、あくまで参考に留め、決して鵜呑みにしないようにしています。
現在取り組まれているブランディング戦略について、井上さんが考える「SBCのブランドイメージを上げるミッション」とは何でしょうか。
ブランディングの定義は多岐にわたりますが、私が考えるSBCでの目的は、 “SBCらしさ”のイメージを再強化することです。その結果SBCが選ばれ、最終的に売上を上げるための手段としてブランディングを位置づけています。
これまでのSBCは、“美容医療といえばSBC”というイメージをお客様の頭の中に確立し、価格や技術、立地という点で他社に勝り、シェアを伸ばしてきました。これは本当に素晴らしいことです。
現在、お客様のニーズは多様化し、競合も大手から個人クリニックまで多岐にわたります。「店舗数や規模が信頼性を生む」時代は終わり、大手であること自体がマイナスに働くケースすらあります。私たちは、多様な競合の中で、SBCの強みである「SBCだったら間違いない」という安心感と信頼性を、従来の顧客層だけでなく、若く新しい顧客層にも訴求し直すべきだと考えます。
そのため、新しいイメージを作り出すのではなく、今あるSBCの良さを、メッセージやCMを通じて内部的・外部的に再強化しようとしています。現在、戦略の整理を進めながら、既にブランドCMなどの施策を展開し、本格的な成果の創出を目指しています。
SBCの接遇は素晴らしく、適切な提案はあっても押し売りがない点、サービスとして確実に施術が行われる点――。すなわち「問題がない」こと自体が極めて重要です。目の前のお客様に対して誠実にサービス提供を淡々と行い続けること。まず、実際に施術を体験していただき、悪い体験を作らないことが、信頼構築の土台になります。お客様に過剰な期待はさせず、まっとうなサービスを提供し、まっとうなメッセージを伝え続ける一貫性と継続性こそが求められます。
具体的な施策として、男性タレントをアンバサダーに起用した『湘南美容の約束』のCMはインパクトがありました。
このCMは、外部ブランディングだけでなく、インナーブランディングとしても機能しています。偏見を持たれがちな美容業界の中で、スタッフが“しっかりした会社で働いている”という自信とプライドを持てるようにすることにも繋がっています。
まっとうなことだけで成果を上げていくのは大変ですが、今の美容医療業界にはそれが求められており、SBCこそがそれを実現できる企業だと信じ、この戦略でマーケティング活動を推進しています。

「ともにSBCの未来を創りたい」 CMOが期待を寄せる人財像とは
今後のSBCの事業展開、井上さんが描く成長・変化のイメージをお聞かせください。
まず美容医療については、SBC独自の強みをしっかり強化し、市場の健全化と成長をリードしていきます。
そして、社内でメディカル領域と呼んでいる美容医療以外の領域については、現在、歯科・AGA治療・婦人科・不妊治療・眼科・整形外科など幅広い分野を展開しています。メディカル領域はビジネスモデルや戦略が美容医療とは別物なので、SBCならではの強みを新たに探す必要がありますね。
変革期にある今のSBCで、マーケターとして働く最大の魅力と面白さは何でしょうか。
一番大きいのは、やはりグループ全体としてのリソースが豊富にあることですね。そして、今はまだ発展途上で、みんなで答えを探し出すフェーズにある点です。これまで培われた仕組みを土台に、新しいチャレンジを積み重ねていけるのが面白い。
急激に成長したSBCだからこそ、挑戦意欲のある人が、周囲に支えられながら実行できる環境があります。しかも、美容医療を含めて正解がないからこそ、挑戦しがいがあります。
マーケティングの仕事の幅が非常に広いことも魅力です。大手企業だと、宣伝部門や調査部門に分かれていて、マーケティングの一部しか担当できないことが多いですが、今のSBCなら、細分化されずに、マーケティング全体を一気通貫で極められるんです。これは本当に珍しいことだと思います。キャリア経験を積む上でも、マーケターとして成長する意味でも、とても面白い状況だと思いますよ。
この変革期にあるSBCで、井上さんが「一緒に働きたい」と特に期待を寄せている人財はどのような方でしょうか。
新しいことやお客様のインサイトを面白いと感じて、貪欲に学ぼうと思える人かどうか。それから、基本的に自分で何でも実行するオールマイティーな能力を持てる人。何でも勉強し、自ら手を挙げ、必要なことは自分で調べて突き詰めていける人なら、マーケターとしてもビジネスマンとしても大きく成長できると思います。
あとは、新しいことに貪欲に学び、仲間とともに課題を解決していける人、環境や上司任せにせず、チームで成果を創り出す姿勢を持てる人。変化や数字が伴わなかったとき、環境やお客様のせいにせず、「自分でどう修正・調整すべきか」という軸で考えられるかどうか。ここも非常に重要だと考えています。
今、優先的に採用している人財は、スタートアップや、中小企業複数の会社でいろいろなことを経験してきた人、事業会社で自分自身がマーケティングの仕事をした人ですね。マーケティングの知識があり、事業会社でその知識を使ってきた経験をお持ちの方であれば活躍できる環境だと感じています。社内のローテーションで仕事をしていたり、メイン業務をパートナー企業に一任しているケースもあるので、“一人マーケター”、“一人PR”として経験を積まれた方の方がポテンシャルがあり、サポートすれば多くを吸収し、応用してくれる気がします。
成長する美容医療業界とSBCの力になってくれる、新しい仲間からのエントリーをお待ちしています。

「マーケティング基盤の再構築」と「美容医療業界の健全な成長」というミッションを掲げ、SBCの第二創業期の挑戦を牽引する井上さん。多岐にわたる大手企業で培われたご経験と、その強い情熱をもってすれば、SBCが目指すビジョンは必ずや実現すると感じました。今日は貴重なお話を本当にありがとうございました!